徹夜で火を焚き、実りを願う。
春の果樹園は霜との闘い!
桃の生産者である山梨一宮グループの久津間さんに誘われ、らでぃっしゅぼーやのスタッフで桃の花見にお邪魔してきました。3月の寒さで開花が遅れたため、訪問した4月上旬、桃の花はまさに満開でした。
甲府盆地の東に位置し桃の栽培に適した扇状地が広がる笛吹市一帯は、4月のこの時季鮮やかな桃色の花で染まり「桃源郷」と表現されます。桜やすももの花も咲き乱れ、春満開です。
桃源郷といわれる笛吹市一帯
甲府だけではなく長野、山形、福島の果樹産地でも、4月はりんご、さくらんぼ、梨、桃など次々に美しい花を咲かせ、新緑とともに山に春を運びます。
花見の前には、人工授粉のお手伝いをしました。高い枝も"毛ばたき"を長く伸ばし、桃の着果を願って授粉を促します。
"毛ばたき"を使ってやさしくなで、花粉をつけます
果樹の生産者にとって、花の時期は心穏やかに眺めて楽しめるわけではありません。一年の中でも極めて重要で、やきもきする時期です。
ほとんどの果物は、花が咲き受粉してはじめて実になります。そして自分の花粉で受粉できるものもあれば、他の品種の花粉でないと受粉できないものも多くあります。これは、植物が異なるDNAを取り入れることで、多様な環境条件で生き延びるための進化の過程といわれます。
例えばりんごは同じ品種では受粉しません。他品種なら何でもよいわけではなく「ふじの受粉には王林が適している」など品種ごとに相性があり、相性のよいものが混植されます。
りんごの花
もうひとつこの時期の大きな悩みは「低温」。花芽はとてもデリケートな部位で、花芽が強い低温や霜に遭うと、実がつかなくなったり、奇形になるなど外観が悪くなったりします。この時期の果樹生産者は霜との戦いです。
りんごの花芽。開花前に低温や霜にあたると、サビ果が発生しやすくなります
皮がサビたようにみえる「サビ果」
冷たい空気が滞留しないように「防霜ファン」をくるくる回して空気をかき混ぜる方法がありますが、このファンも万全というわけではなく、気温が低すぎると効果が期待できません。
昔ながらの「燃焼法」というやり方もあります。気温が下がる夜中、固形燃料や灯油に火をつけて樹の下で火を燃やし、その熱で霜害を防ぎます。ただし徹夜での火の番が必要。燃料は朝までは持たないし、安全面からもつけっぱなしで寝るわけにはいきません。
まし野の梨園、燃焼法の様子
りんごや梨の生産者、長野県まし野の熊谷さんは、強い霜が降りる時期は「徹夜してでも何とか乗り切ります」といいます。いつ霜が来るか、霜注意報を見て準備をしますが、注意報が出ても実際はそこまで低温にならなかったり、逆に油断した日に限って強い霜に襲われたりすることも。強い霜にやられると、その花からは実がつきません。
生産者が神経をすり減らして行うこの「燃焼法」の夜の畑の光景は、傍目にはまるでライトアップされているかのように幻想的で美しく映ります。
年に一度の花盛りの季節、美しさの影で、生産者は最初の正念場を迎え、実りのために日夜必死に戦っています。
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