らでぃっしゅぼーや

今週の畑だより

らでぃっしゅぼーや農産担当による
畑の"今"を届ける産地密着コラム

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果樹栽培を続けるための、理想と現実
~アップルファームさみず・まし野~

りんごの「目ぞろえ会」で今年の状況を確認
11月に入りようやく朝晩の気温が低くなりました。長野のりんご産地アップルファームさみずで、これから収穫を迎えるふじなど晩生種りんごの出荷基準を検討する「目ぞろえ会」に参加してきました。

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司会進行はアップルファームさみずの竜野さん。自らも栽培者であり、選果場の検品管理もしています

20人以上の生産者が集まり、出荷してよいか迷うりんごを持ち寄ります。今年の状況をふまえたうえで、どこまでがOK、どこからがダメかの線引きを確認しました。

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今年の「中生種」りんごは予想外の不作に
スタートは順調だった今年の長野のりんごですが、中盤につまづき一転して不作になってしまいました。シナノスイート、秋映などの中生種とよばれるりんごが、収穫してみると非常に少なく、干ばつで不作だった昨年の3割減、一昨年の約半分の収穫量しかなく非常に厳しい状況です。

ふじが少ないのは春から見込まれていましたが、「中生種までは順調」と聞いていただけに、この落ち込みは私たちも衝撃ですし、何より生産者自身がショックを受けています。

受精不良「カラマツ」と、天候による病気
主な原因はふたつあり、ひとつは「カラマツ」といわれる受精不良(受粉しても受精がうまくいかない)、着果不良(受精したが実にならない)によるもの。
昨年の高温がもたらした樹への負担は予想以上に大きく、今年もその影響を引きずっていると考えられます。

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実のつきが悪い、アップルファームさみずのりんご農園

もうひとつの原因は、病気の拡大です。強い雨が多く気温が高かったため、輪紋病(りんもんびょう)と炭疽病(たんそびょう)の被害が大きく、小さな点のような病斑から傷みが広がり、果実の2割程度が腐ってしまうことも。出荷前の検品も、小さな傷みを見逃さないようにと注意喚起がありました。

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今年多発している「輪紋病」。小さな輪っか状の斑点がどんどん大きくなって傷んでいきます

カメムシ大量発生による被害も
南信州の梨やりんごの産地、まし野では、カメムシ被害にも苦慮していました。今年は初夏から各地でカメムシ多発情報があり、果樹産地は警戒してきましたが、特に低農薬栽培の生産者は、対抗する手段が少ないのが現状です。

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長野県まし野のりんご生産者の皆さん

カメムシは夏の間は森にいて、スギやヒノキの実を吸いつくし、果物が実る秋ごろになると果樹園に移動してきます。

虫は、小さくて数も少ない早い段階で対処するのが鉄則ですが、カメムシは大きくなってから飛来してきます。 早期の予防が難しく、また袋がけをしても袋の上から吸われることもあり、物理的に侵入を防ぐことも難しいため、農薬散布が現実的な対抗策になります。

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選別前のりんご。カメムシ被害のものも多くみられます

果樹の農薬散布は、車高の低い散布車に乗り、枝葉や実にしっかりかかるように上に向かって農薬をまきちらす形になるため、運転する生産者が最も農薬にさらされます。

防護服やマスク・ゴーグル装着など完全防備で散布しますが、真夏は熱中症のリスクもあり、体への負担は大きいです。

このため生産者への影響が見直され、農薬の使用が厳格化されてきました。その結果、これまで果樹に使ってきた一部の主要な農薬の登録が失効し使えなくなりました。生産者の健康や安全に配慮した素晴らしい流れです。

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シンクイムシの被害。幼虫が実のなかに侵入し、食い荒らします

一方で生産者の悩みは深まります。
カメムシに効果のある農薬は主に3系統ですが、そのうち1系統がほぼ使えなくなり、ネオニコチノイド系か合成ピレスロイド系に頼る形になります。
同じ系統に依存するといずれ効かなくなるなど、別の弊害がうまれがち。新たな対処技術の開発が必要ですが、生態系の変化は、技術の進歩を上回っています。

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カメムシとの戦いは、来年以降も続きます。「農薬を使わない」がひとつの理想ですが、有機のりんごが「奇跡」と呼ばれるように、病害虫リスクの高い果樹は、現実との折り合いをつけなければ作れません。

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虫害か生理障害か判別つかないものも。らでぃっしゅぼーやでは、多少の傷があっても果肉への影響が広がらないものは、選別のうえお届けします。

長年、理想を高く掲げて技術を磨いてきた生産者であっても、気候変動で厳しさを増す現実に打ち勝つのは難しくなっており、生産を続けるために、折り合える場所を探りながら進む必要が出てきています。

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